薪屋徒然　

　それは春の穏やかな日であった。

社長が突然、

　「桜子ちゃんが、藤子ちゃんに苛められるので
　　懲らしめに行ってくる。」とつぶやいた。

穏やかではない、腰にはナタをぶら下げている。

フォローどころじゃないぞ。


「薪屋」は小高い山に囲まれた自然豊かな場所にある。



　桜好みの社長は、藤蔓にからまれた桜の木が可哀想だと
道なき斜面を這い登り、年甲斐もなく蔓(藤子ちゃん)を
刈り取りに行ったのである。



　要は環境整備なんだから若い者に任せればいいのにと
思うのだが、まぁ趣味みたいなもんか。

　社長は万事こんな感じでよくつぶやくので
私は、困惑することもしばしばだ。(単にからかわれて
いるんだろうが。)　雇われの身であるので控えめに
冷静に受け答えることにしている…。